培養幹細胞治療とは
患者様ご自身の皮下脂肪に含まれる「幹細胞」という細胞を抽出し、これを培養して膝に注入する治療法で、再生医療に分類されます。
幹細胞とは、将来様々な細胞に変化することができる「細胞の赤ちゃん」のようなもので、細胞の新陳代謝で重要な役割を担っています。この幹細胞が、損傷を受けた組織や、経年的に変形をきたした膝関節に刺激を与え、関節内の炎症を抑えるとともに、組織の修復・再生を促します。
こんな方々におすすめです
培養幹細胞治療はこのような方々のお役に立ちます。
現状の治療で効果が感じられない
変形性膝関節症の初期の治療は対症療法がメインですが、対症療法は、長期間続けるうちに徐々に効果を感じられなくなることがあります。
培養幹細胞は痛みの原因や関節内の損傷の修復に直接働きかけます。
これによって、症状の改善が期待できます[1]。
できれば入院を伴う治療は受けたくない
お仕事の都合やご家族のお世話などのため、あるいはご自身が高齢などの理由で、長期間の入院は難しいとお考えではありませんか? そのせいで、手術に踏み切れずにいませんか?
幹細胞は注射で投与するので入院は不要です。
採取する脂肪量は小豆大の大きさ程度で、体へのダメージもほとんどありません。
重症度がグレード2以上と判定された
変形性膝関節症には、関節の損傷度合いから重症度を識別するK-L分類という指標があります。レントゲン撮影を行っていれば判定可能な、ごく一般的な指標です。
培養幹細胞治療は、グレード2以上が治療対象。
早い段階で治療を受けた時ほど、高い効果が期待できます[2]。
<K-L分類とは>
K-L分類とは、変形性膝関節症の重症度を判定する際に用いられる、最も一般的な指標です。レントゲン写真を元に、関節軟骨の減少具合と骨棘(こっきょく)の形成など、関節損傷の進行度を分類します。整形外科のドクターなら誰でも判定できるので、わからない方はぜひ確認してみてください。
メリットデメリット
事前に知っておいていただきたい、培養幹細胞治療のメリットとデメリットについてご紹介します。
メリット
メリットとしては、従来の治療法で解決できなかった痛みの改善が期待できることや、体への負担が軽いことなどが挙げられます。
■注射だけの治療なので、手術に比べて低侵襲です。
▶︎体への負担も軽く、高齢の方でも無理なく受けていただけます。■効果の持続性が期待できます。
▶︎1度の治療で、数ヵ月から1年程度改善効果が持続します。■副作用の心配はほとんどありません。
▶︎自己脂肪を利用するので、アレルギー反応や拒否反応の心配はほとんどありません。
デメリット
新しい治療なので、長期的な予後は確認できていません。また、適応患者の見極めなどに関するエビデンスの確立が待たれます。このほか、経済的な負担も少なくありません。
■効果には個人差がある。
▶︎事前の検査である程度予測できますが、全ての人に同等の効果はお約束できません。■即効性は期待できない。
▶︎有効物質が反応して効果として現れるまでに、約1ヵ月程度要します。■保険が適応されません。
▶︎新しい治療法なので保険が適応されず、一般的な治療に比べて費用も高額です。
メリット | デメリット |
・注射だけで行うので低侵襲(入院不要) ・1度の治療で長期的な効果が期待できる ・副作用の心配が少ない |
・保険が適応されない(自由診療なので負担が高額) ・即効性は期待できない(効果発現まで約1ヵ月) ・治療の効果や効果の持続期間に個人差がある |
当院が培養幹細胞治療をご提案する理由
培養幹細胞治療には、「培養」あるいは「幹細胞」ならではのメリットがあります。
1.培養するから豊富な幹細胞を注入できる
幹細胞を培養せずにそのまま注入するという方法もありますが、その場合、効果を実感いただけるだけの幹細胞を確保するためにかなりの量の脂肪が必要になります。
その点、培養幹細胞治療であれば、治療に必要な脂肪量はごく少量で大丈夫です。豆粒大の脂肪から1,000万個の幹細胞を作ります。
2.培養していても効果に影響はない
培養した幹細胞が本来の幹細胞と同じ働きをするの? と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、その点はご安心ください。培養グループと非培養グループを比較したところVASという痛みの評価指標はどちらのグループも改善しました(低くなるほど痛みが改善されてことを意味します)。むしろ、培養した方が結果が良いとも考えられます。治療後3ヵ月以降を比べてみると、培養グループでは減少傾向が見られたのに対し、非培養グループは横ばいでした[2]。
3.幹細胞が組織の修復を後押しするから、全身状態の改善も期待できる
幹細胞が関節の修復を後押しし、歩き方、歩く姿勢が改善されることで、全身の動きがよくなることが期待されます。こうした変化は、日常活動の質の改善にもつながります。食欲が出て、睡眠の質が良くなり、その結果、身体全体の代謝も良くなり、ひいては体脂肪率の改善も期待できます。
注意点
当グループの12,500例に登る培養幹細胞治療の症例において、現時点で重篤な有害事象は見られていません。とは言え、注射に伴う感染、神経・血管損傷のリスクはゼロではないので、不安な症状などありましたら速やかにお申し付けください。
なお、リスクを回避するため、治療前後には以下の点にご注意ください。
【治療前の注意点】
1.採取した脂肪に雑菌が混入するのを防ぐため、脂肪採取の前日は、シャワーか入浴を行なってください。
2.お腹から脂肪採取する場合は、お臍のお掃除もお願いいたします(お臍から脂肪を吸引します)。
【脂肪採取後の注意点】
1.脂肪を採取した日とその翌日の入浴、飲酒は控えてください(洗髪、体拭き、下半身のシャワー浴は可)。
2.入浴は脂肪採取の1週間後から可能です。
3.脂肪採取部位に内出血、むくみ、硬縮(皮膚が硬くなる症状)が出てきますが、これらは1ヵ月程度で落ち着きます。
【幹細胞注入後の注意点】
1.注入当日の入浴と飲酒はお控えください(全身のシャワー浴は可)。
2.注入部位に腫れ、熱感、痛みがありますが1ヵ月程度で落ち着いてきます。
費用
詳しい費用については、料金ページにてご案内しております。また、当院の治療は自由診療になりますが、医療費控除制度が適応される場合があります。併せて内容をご確認ください。
治療の流れ
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1.受診のご予約
当院は完全予約制です。
待ち時間や混雑の心配はありません。 -
2.検査/診察
ご予約いただいた日時にご来院いただき、MRI検査と医師による診察を受けていただきます。
すでにMRI画像をお持ちの方は、検査を省略することも可能です。 -
3.採血
検査と診察の結果、培養幹細胞治療の適応があると診断され、かつ治療内容についてご納得いただけた場合は、その日のうちに検査用に採血させていただくこともできます。
(治療を受けるかどうか迷われた場合は、一旦持ち帰ってご検討いただくことも可能です。) -
4.脂肪の採取
血液検査に問題がなければ、脂肪を少量採取します。
脂肪の採取にかかるお時間は約15~30分程度です。 消毒や準備も合わせて、トータルでも1時間程で終了します。 局部麻酔を使用するなど、できる限り痛みを抑えるよう努めますのでご安心ください。
脂肪採取後は幹細胞の抽出と培養のため、6週間ほどお時間をいただきます。 -
5.培養幹細胞注入
幹細胞の培養が完了したら再度ご来院いただき、膝関節に幹細胞を注入します。
局部麻酔で痛みを抑えながら、5分程度で終了です。
その後は歩いてご帰宅いただけます。
よくある質問
治療後どれぐらいで効果が出ますか?
個人差はありますが。平均的には1ヵ月前後とお考えください。6ヵ月くらいまでの間にさらに効果がはっきりしてくる傾向にあります。
変形性膝関節症の初期段階には効果が期待できないのでしょうか?
進行期でも効果を期待できる治療法ですが、初期段階ではより高い確率で効果が期待できます。早めのご相談をお勧めします。
人工関節置換術を受けた後でも受けられますか?
人工関節が入っている方の関節内投与は適応外となります。本治療では、残存する組織に働きかけ、これを活性化することで関節機能の回復を図ります。よって治療対象となるのは、基本的には人工関節に置き換わる前の段階までです。
脂肪採取の後は普通に仕事に行けるでしょうか?
デスクワークであれば、まず問題ありません。採取後数日は吸水パッドをお腹周りに巻いていただきますが、服を着れば違和感は無くなります。
90歳の母でも受けられますか?
年齢で制限を設けるということはありません。90歳以上の方で培養幹細胞治療を受けた方もいらっしゃいます。ご高齢の方は脂肪量が少ないですが、培養幹細胞治療で採取する脂肪量はわずか20mLです。ショットグラス1杯分程度なので無理なく受けていただけます。
治療後の生活に制限はありますか?
行動面では特に制限はありません。普通にお過ごしください。脂肪採取後の数日と、幹細胞注入を行なった当日は、飲酒と入浴(シャワー)の面で若干の制限はあります。
脚注
- [1]∧Pers YM, et al. Adipose Mesenchymal Stromal Cell-Based Therapy for Severe Osteoarthritis of the Knee: A Phase I Dose-Escalation Trial. Stem Cells Transl Med. 2016 Jul; 5(7): 847-856.
- [2]∧N Yokota, et al. Comparative Clinical Outcomes After Intra-articular Injection With Adipose-Derived Cultured Stem Cells or Noncultured Stromal Vascular Fraction for the Treatment of Knee Osteoarthritis. Am J Sports Med. 2019 Sep; 47(11): 2577-2583.